2026年3月期有価証券報告書の留意点(2/2)
Seiwa Newsletter May. 2026 (Vol.125)
有価証券報告書レビューにおいて識別された課題及び留意事項等
RSM清和監査法人 公認会計士 平澤 優
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はじめに
今月のニュースレターは、先月4月号に引き続き2026年3月期有価証券報告書の作成上の留意点がテーマです。先月は「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正を踏まえ、人的資本開示に関する制度見直し及び総会前開示への対応の論点を解説しました。今月は有価証券報告書の記載内容の適切性の確保の観点から金融庁が毎年実施している「有価証券報告書レビュー」を取り上げます。3月に2025年度(2025年3月31日~2026年3月30日決算)のレビュー結果、4月に2026年度のレビュー項目が公表されています。いずれも2026年3月期の有価証券報告書作成において参考となるため、以降で説明します。先月号と併せてご覧ください。
2025年度レビュー結果
2025年度は下記(1)~(4)の領域に対してレビューが実施されました。うち(1)(2)は2023年度からの継続であり、そのレビュー結果はVol.100,101「サステナビ リティ開示等の課題と留意事項」及びVol.112「2025年3月期有価証券報告書の留意点(1/2)」で解説していますので、ここでは今回新たに識別された課題及び留意事項等を中心に取り上げます。
(1) サステナビリティに関する企業の取組の開示
課題 | 留意事項等 |
リスク及び機会を識別、評価及び管理するための過程の記載がない⼜は不明瞭 | 短期、中期又は長期にわたり、企業のキャッシュ・フロー、当該企業のファイナンスへのアクセス又は資本コストに影響を与えると合理的に見込み得る、すべてのサステナビリティ関連のリスク及び機会に関して、重要性がある情報を開示する。 |
人的資本(人材の多様性を含む)に関する方針、指標、目標及び実績のいずれかの記載がない又は不明瞭 | 人的資本の指標は、戦略と指標及び目標の連動が重要であり、エンゲージメントスコアなどの指標は単なる数値の増減だけでなく、数値を構成する要素の変化に着目し改善施策との関連性を示すことが望ましい。 |
(2) 重要な契約等の開示における記載事項
課題 | 留意事項等 |
企業・株主間のガバナンスに関する合意について、取締役会における意思決定に至る過程、又は、当該合意が当該提出会社の企業統治に及ぼす影響の記載がない又は不明瞭 | ・取締役会における検討状況その他の提出会社における合意に係る意思決定に至る過程及び当該合意が当該提出会社の企業統治に及ぼす影響(影響を及ぼさないと考える場合には、その理由)を具体的に記載する。 ・投資者の投資判断や投資家との建設的な対話に資する具体的な開示内容となるよう適切に検討した上で、投資判断に対する重要性に応じて、投資者の理解を損なわない程度に要約して記載することも考えられる。 |
重要な契約等が2024年4月1日に施行された改正開示府令等の施行日前に締結された契約である場合に、記載を省略する旨の記載をしていない | ・該当事項がない旨を記載するのではなく、記載を省略する旨の開示が必要。 ・記載の省略は2025年4月1日より前に開始する事業年度に係る有価証券報告書までの経過措置のため、あらためて企業において検討を実施し、重要な契約等の開示漏れが無いように留意する。 |
(3) コーポレート・ガバナンスの状況等の開示(政策保有株式関連の開示を含む)
課題 | 留意事項等 | |
保有目的を純投資目的に変更した場合に、保有目的の変更の理由の記載が不明瞭
| ・保有意義が薄れたことは政策保有目的での保有を止める理由にはなるものの純投資目的となった積極的な理由とはいえず、説明としては不十分。 ・保有目的を明確に説明できない政策保有株式は売却すべきものであって、保有意義が薄れたから純投資に振り替えるというのは説明になっておらず、本来的には政策保有株式の保有意義が薄れたのであれば振り替えではなく、直接売却をしていくべきであるという投資家の意見もある。 | |
保有目的を純投資目的に変更した場合に、変更後の保有又は売却に関する方針の記載が不明瞭
| ・投資判断基準についての記載がないため、会社が今後この株式を保有する方針なのか売却する方針であるかが読み取れず、説明としては不十分。 ・売却方針である株式については、売却予定時期を明示するか、それが困難であっても、売却を実現する際の考慮要素(発行企業のガバナンスや業績・株主還元姿勢の変化、株価の推移等)がどのような状況になれば方針がどのように変化するのかという点について記載することが考えられる。 |
(4) 内部統制報告書における記載事項
課題 | 留意事項等 | |
「財務報告に係る内部統制の評価の範囲」の記載について、改正内部統制府令ガイドラインで定められている事項について「決定した事由」の記載がない又は不明瞭
| ・重要な事業拠点を選定する際に利用した指標を「売上高」、その一定割合を「2/3」と記載しているが、当該指標及び一定割合の「決定した事由」について記載されていない。 ・「会社が複数の事業拠点を有する場合において、評価の対象とする重要な事業拠点を選定する際に利用した指標及びその一定割合」、「当該重要な事業拠点において、評価の対象とする業務プロセスを識別する際に選定した会社の事業目的に大きく関わる勘定科目」、「評価の対象に個別に追加した事業拠点及び業務プロセス」について、「決定した事由」を併せて記載する。 |
2026年度レビュー項目
2026年度のレビュー項目は、先月号及び上記でも取り上げた(1)重要な契約等の開示と(2)人的資本に関する開示です。選定された対象会社には、所管の財務局等から調査票が送付されます。(1)は「1.記載している」「2.記載していない」「3.該当なし」、(2)は「1.記載している」「2.記載していない」を下記の調査項目ごとに選択し、「2.記載していない」の場合にはその理由を記載します。(2)は「従業員の状況等」だけでなく、「サステナビリティに関する考え方及び取組」における人的資本に関する記載内容も調査対象となります。
(1) 重要な契約等の開示
① 企業・株主間のガバナンスに関する合意
② 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意
③ ローン契約と社債に付される財務上の特約
(2) 人的資本に関する開示
① 連結会社の人材戦略
② 連結会社の従業員の給与その他の給付の額及び内容の決定に関する方針
③ 提出会社の従業員の数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与及び平均年間給与の対前事業年度増減率
(提出会社が子会社の経営管理を行うことを主たる業務とする場合には最大人員会社(先月号参照)を含む)
有価証券報告書に適切ではないと考えられる記載内容等が⾒つかった場合には、訂正⼜は次年度の有価証券報告書での改善を求める通知等が⾏われる可能性があります。調査票をチェックリスト的に活用し、記載漏れや不十分な記載がないよう取り組んでください。調査票は金融庁のウェブサイト(令和8年4月28日更新「有価証券報告書レビュー及び大量保有報告書等のレビューについて(令和8年度)」)から入手できます。
なお、上記のレビュー結果・項目と同時に以下の開示事例集が公表されています。2026年度レビューの対策として関連する好事例がピンポイントで確認できるほか、サステナビリティに関する企業の取組やコーポレート・ガバナンス関連の開示例を広く参照することができます。こちらも金融庁のウェブサイトから入手できるので、ぜひ参考にしてください。
・記述情報の開示の好事例集2025
・令和7年度 有価証券報告書レビューにおいて識別された課題対応にあたって参考となる開示例集
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