IPO準備会社における関係会社の整備(2/2)
Seiwa IPO Newsletter Oct. (2025年特別版_秋号)
親会社等が存在する場合(子会社上場に関する論点)
RSM清和監査法人 公認会計士 越智 啓介
はじめに
前回のニュースレターではIPO準備会社における「資本下位会社の整備」をテーマにしましたが、本稿では「資本上位会社(親会社等)が存在する場合」、いわゆる子会社上場について整理します。子会社上場の最大の論点は、親会社等と少数株主の間に潜在的な利益相反関係が存在する点にあり、親会社等からの独立性および少数株主保護を十分に担保していることが必要になります。
※前回のニュースレターは、以下のリンク先をご参照ください。
(特別版_夏号)IPO準備会社における関係会社の整備(1/2)
「親会社等」の定義
「親会社等」とは、以下のいずれかに該当する者を指します。
・親会社(財務諸表等規則第8条3項に規定)
・その他の関係会社(同規則第8条17項4号に規定する会社またはその親会社)
ただし上場前の公募・売出し等により、上場後最初の事業年度末までに「親会社等」を有しない見込みの場合はその限りではありません。
利益相反リスク
親会社等の利益が優先され、子会社の利益(ひいては子会社の少数株主の利益)が損なわれる恐れがあるという観点から、子会社上場においては親会社等と子会社少数株主との間に利益相反リスクが潜在します。
投資者に親会社等から独立した別個の投資対象を提供できるかが上場審査の根本となり、具体的には以下のような実質審査基準があり、これらをクリアしていくことが必要です。
実質審査基準
上場審査は主に以下の3つの観点から行われます。
・事業の独立性
「事実上、子会社が親会社の一事業部門と認められる状況」にないことが求められます。
具体的には、例えば一事業部門を分社化して子会社が設立された場合に、当該子会社が親会社の事業の一部を担うのみで、事業運営全般が親会社の指示に従って行われるようなケースが想定されますが、このような場合、親会社の利益が優先されて子会社株主の利益が損なわれる可能性が高いことから、当該子会社は投資対象として適切ではありません。
このため、親会社等を有する場合でも、自社独自の意思決定プロセス、営業力、技術力、人材等を有することが求められます。
・取引条件の公正性
取引条件が市場実勢と著しく異なる不利な条件で実施されている親会社等との取引が無いことが必要になります。このような取引関係が存在すると、親会社等からの独立性が上場会社として確保されていないことになるためです。
・人材の独立性
上場会社として親会社等から独立した事業運営を行うにあたり、会社が独自で人員を確保できるかどうかも重要なポイントになります。具体的には以下の点を具備する必要があります。
– 経営幹部が親会社等からの出向に過度に依存していないこと。
– 親会社からの出向者がいても、出向関係が解消された場合に代替可能で、独自の経営体制を維持できること。
親会社等の決算情報の開示
上場子会社は、親会社等との取引や支配関係等を通じて様々な影響を受ける可能性があるため、投資者が適切に投資判断を行うためには、上場会社自身の情報だけでなく、親会社等に関する情報も有用になります。このため、非上場の親会社等を持つ場合にはその決算情報の開示が求められています。
具体的には、上場会社は、親会社等が非上場会社である場合、当該親会社等の決算に関する情報を当該親会社等の事業年度又は中間会計期間終了後、決算に内容が固まり次第速やかに開示しなければならない旨が有価証券上場規程に定められています(411条第2項)。
従って、親会社等との連携を含め、親会社等の決算情報が適時に把握できる体制の構築が必要です。
おわりに
子会社上場は潜在的利益相反関係を抱える分、その観点で上場審査は厳格に実施されます。資本・取引・人材の三側面で独立性を確保し少数株主保護を明確に示すことと、親会社等の情報開示体制の確保が不可欠になります。IPO準備においては、資本下位会社の整理と併せて、資本上位会社との関係性の整理、再構築も早期から進める必要があります。
参考文献
東京証券取引所「2024 新規上場ガイドブック(グロース市場編)」 pp.48-68.
東京証券取引所「2024 新規上場ガイドブック(プライム市場編)」 pp.55-63.、73-79
東京証券取引所「2024 新規上場ガイドブック(スタンダード市場編)」 pp.53-61.、71-76.
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