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はじめに

 20251219日に2026年度の税制改正大綱が公表されました。足元の物価高への対応として、いわゆる「年収の壁」を引き上げるほか、「強い経済」を実現するために、大胆な設備投資促進税制や新たな研究開発税制が創設されます。また、租税特別措置については、賃上げや設備投資に積極的ではない企業を適用除外とする制度の強化・拡充により、的を絞り、メリハリを明確にすることでインセンティブを強化しています。今年最初のSeiwa Newsletterでは、これらの税制改正のうち、主な項目について解説します。

個人所得課税

物価上昇局面における基礎控除等の対応

所得税の基礎控除の額が定額であることにより、物価が上昇すると控除の実質的な価値が減少し、税負担が増加するという課題があります。こうした課題に対応するために、2026年以後の恒久的な制度として、基礎控除の本則部分を税制改正時における直近2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率を乗ずることで調整するほか、給与所得控除の最低保証額も同様の措置を講じます。2026年・2027年所得に適用される基礎控除及び最低保証額はそれぞれ4万円引き上げます。【改正①】

併せて、物価上昇の中で足元厳しい状況にある中低所得者に配慮して、課税最低限が202412月の自由民主党・公明党・国民民主党による三党合意の趣旨を踏まえた178万円となるように、基礎控除額の特例を5~32万円、給与所得控除の最低保証額を5万円引き上げます。こちらは2026年・2027年の時限措置ですが、今後、生活保護基準額が178万円に達するまでは、当該課税最低限を維持する予定です。【改正②】

住宅ローン控除

本格的な人口減少やカーボンニュートラルといった変化に対応した豊かな住生活を実現するためには、既存住宅の利活用と省エネ性能の向上が重要となるため、2025年末に適用期限を迎えた住宅ローン控除について、適用期限を20301231日まで5年延長するとともに、次の措置を講じます。

・相対的に省エネ性能が低く、2030年以降新築等が認められなくなる予定の「省エネ基準適合住宅」を新築・買取再販(1)した場合の借入限度額を引き下げるとともに、新築について2028年以降は適用対象外とする。(買取再販は2030年まで適用可)

・既存住宅の取得について、省エネ性能に応じて借入限度額を引き上げる又は引き下げるとともに、子育て世帯等(2)への上乗せ措置(下表()内が上乗せ後の限度額)の対象とし、控除期間を13年に拡充する。

・床面積要件について、40㎡に緩和されている特例の適用範囲を既存住宅にも拡充する。

・災害危険区域等内における新築について、2028年以降は適用対象外とする。

住宅の区分

新築・買取再販

既存住宅

借入限度額

控除期間

借入限度額

控除期間

認定住宅

4,500万円

(5,000万円)

13

3,000万円 → 3,500万円

(対象外 → 4,500万円)

10年 → 13

ZEH水準省エネ住宅

3,500万円

 (4,500万円)

省エネ基準適合住宅

3,000万円 → 2,000万円

(4,000万円 → 3,000万円)

3,000万円 → 2,000万円

(対象外→ 3,000万円)

※1 認定住宅等である既存住宅のうち宅地建物取引業者により一定の増改築等が行われた「買取再販認定住宅等」の取得

※2 40歳未満で配偶者を有する者、40歳以上で40歳未満の配偶者を有する者又は19歳未満の扶養親族を有する者

NISAの拡充

次世代の資産形成を支援する観点から、これまで18歳以上を対象としていたNISAについて、つみたて投資枠の対象年齢を0歳まで拡充します。0~17歳の間の年間投資枠は60万円、非課税保有限度額は600万円に設定し、18歳に達した際に既存の18歳以上向けの制度(年間投資枠360万円、非課税保有限度額1,800万円)に移行します。202711日以後に設けられた口座が適用対象です。

なお、原則として18歳までは払い出すことはできませんが、12歳未満で災害により家屋が全壊した場合や、12歳以上で払出し事由が教育費又は生活費であり、かつ本人の同意がある場合には、非課税での払出しが可能です。

暗号資産の分離課税化

国民の資産形成とデジタルエコノミーの進展に資するため、これまで雑所得として最大55%(所得税45%、住民税10%)の総合課税が適用されていた暗号資産について、投資家保護のための法整備等を前提に、上場株式等と同様に分離課税の対象とします。これにより、税率は一律20%(所得税15%、住民税5%)になるほか、譲渡等により生じた損失について翌年以後3年間の繰越控除が可能となります。金融商品取引法の改正法の施行日の属する年の翌年11日以後に行う譲渡等から適用されます。

なお、対象となる取引は暗号資産取引業者に対して金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等を譲渡した場合に限られているため、留意ください。

法人課税

特定生産性向上設備等投資促進税制の創設

強い経済の実現に向けて、大規模かつ高付加価値の投資を促進する観点から、全ての業種を対象とし、投資下限額35億円(中小事業者等は5億円)及びROI水準15%の高い基準を満たす設備投資に対し、即時償却又は高い税額控除率を適用できる制度を創設します。税額控除は取得価額の7%(建物・建物附属設備・構築物は4%)、法人税額の20%を上限とし、控除限度超過額は3年間の繰越しが可能です。2029331日までに経済産業大臣の確認を受け、同日以後5年以内に事業の用に供した設備が対象となります。

なお、当該投資計画の期間中は、中小企業経営強化税制やカーボンニュートラル投資促進税制といった他の税制優遇措置の適用を受けることができません。中長期の投資計画を踏まえた各税制の理解と比較検討が必要となります。

研究開発税制の拡充

国家戦略として重要な技術領域への企業の研究開発を促す観点から、新たに「戦略技術領域型」の研究開発税制を創設し、AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー及び宇宙に係る試験研究費について、既存の措置と別枠の税額控除率(40%)・控除上限(法人税額の10%)を設定します。併せて、当該技術に係る認定を受けた研究開発期間と企業の共同・委託研究についても同様に高い税額控除率(50%)を設けます。さらに、これらについて3年間の繰越税額控除を設けるなど、制度を抜本的に強化します。2029331日までに重点研究開発計画の認定を受け、そこから5年が対象です。

一方で、海外への委託研究については、本税制の対象となる試験研究費(医薬品等の臨床試験に係るものを除く)を今後3年間で50%まで段階的に縮減し、国内の研究人材や研究開発拠点の維持・強化を図ります。

賃上げ促進税制の縮減

物価高に負けない構造的・持続的な賃上げを強化する観点から、2024年度税制改正において賃上げ促進税制を抜本的に強化したものの、足元の賃金上昇率が本税制の要件となる水準を大きく上回る状況にあることから、人材確保のための防衛的賃上げに苦しむ中小企業に特化した形に見直します。

・大企業は2027331日の適用期限を待たずに2026331日をもって廃止する。

・中堅企業(常時使用する従業員の数が2,000人以下)は適用期限の到来をもって廃止することとし、適用要件を賃上げ率3%以上から4%以上へ引き上げるとともに、税額控除率への上乗せ措置を縮減する。

・中小企業は現行制度を維持することとし、期限到来時に適用状況等を踏まえ、必要な見直しを検討する。

なお、教育訓練費を増加させた場合の上乗せ措置については、教育訓練費の増加額を税額控除額が上回る場合があるという会計検査院の指摘を踏まえ、全企業で廃止します。

オープンイノベーション促進税制の見直し

スタートアップの議決権の過半数を取得した際に取得価額の25%を損金算入できる措置について、IPOへの偏重が指摘される出口戦略の多様化、特にM&Aを促進する観点から、次の措置を講じた上、その適用期限を2028331日まで2年延長します。

・取得価額要件を5億円以上から7億円以上へ引き上げる。

・取得日から3年以内に議決権の過半数を有することが見込まれる株式取得を対象に加える。(所得控除率は20%

・発行法人を吸収合併した場合、特別勘定(損金算入額)を5年間で取り崩して益金算入する。(現行は一括)

その他

 相続税等の財産評価の適正化

貸付用不動産の市場価格と通達評価額との乖離の利用によって相続税や贈与税の税額が大幅に圧縮されている事例が把握されていることを踏まえ、評価の適正化及び課税の公平性を図る観点から、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得・新築した貸付用不動産については、課税時期における通常の取引価額、すなわち当該不動産の取得価額を基に評価します。また、不動産クラウドファンディング等の権利の目的となっている貸付用不動産ついては、その取得の時期にかかわらず、同様に評価します。これらは202711日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用されます。

インボイス制度の定着に向けた対応

インボイス制度導入に係る経過措置として設けられたいわゆる2割特例(免税事業者からインボイス発行事業者となって3年間は納付税額を売上に係る消費税額の2割とすることができる特例)の終了後は、簡易課税制度への移行が原則となりますが、制度の定着に向けて事務負担への配慮がより必要と考えられる個人事業者について、課税事業者を選択してインボイス発行事業者になっている場合には、これまで2割特例の対象となっている個人事業者も含め、その納税額を売上税額の3割とすることができる経過措置を2年に限り講じます。

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